設置の目的
非線形現象は制御システムにおいて普遍的に現れ,それが現代社会における様々な人工的システムの性能限界の要因となっていることが多くあります.一方,非線形現象は自然界や生命体において鍵となる機能を提供しており,例えば電子素子などでは,古くから非線形現象が要素的に活用されています.しかしながら,結合により作られた統合システムを扱うシステム論では,非線形性は画一化の妨げになるため除外され,近似誤差として扱われることが少なくありません.これによりシステム論に基づく設計に性能限界や無駄なエネルギー消費や劣化が生まれるだけでなく,非線形要素が結合して生まれる非一様の予期しないダイナミクスによりシステム性能が支配され,操作不能状態,混沌・崩壊に陥ることが起こり得ます.
非線形制御理論は,沢山の数式ツールを提供し続け,国内でも最先端の理論開発が多く行われています.しかし,非線形制御理論が実現象から離れて数式上の画一化の方向のみに進むと,実現象が除外される,あるいは,効果的に現象を活用できないこととなり,性能限界の打破は達成できません.
そこで本調査研究委員会では,非線形システム制御理論において別々に開発されている様々な数式アプローチを,実システムの非線形現象を特徴化するという共通視点で最先端の状況を整理し,理論発展を実システムに対する解決力を高める方向に向け,応用的研究の加速する発展を目指すことを目的としています.
想定するアプローチ
- 代数論的モデル化と設計 リーダ:大塚敏之
- 多様体的モデル化と設計 リーダ:坂本登
- 確率論的モデル化と設計 リーダ:西村悠樹,佐藤訓志
- 分布型モデル化と設計 リーダ:西田豪,椿野大輔
- リアプノフ型の特徴化と設計 リーダ:伊藤博,中村文一
- 学習制御の特徴化と設計 リーダ:藤本健治
- ディジタル実装型の特徴化と設計 リーダ:片山仁志,内山直樹
モデルや制御系設計仕様における多項式や有理式などの構造を利用した,構成的な解析・設計の方法論について調査を行う.
非線形ダイナミクスには,線形解析の固有空間に当たる概念の拡張である多様体論が有用である.このアプローチを設計論として体系化する手法の調査を行う.
実システムには無視できない不規則外乱が入り込む場合があるため,不規則外乱を含むモデルである確率システムの解析および制御設計の調査を行う.
非線形分布定数系に固有な物理現象に注目し,それらを利用した構成的な制御系設計論や特徴的なダイナミクスの抽出に基づく近似理論の調査を行う.
古典的なものとは違い,外乱ロバスト性や大規模・結合システムのエネルギー収支を不連続も含む非線形性を取り込む解析設計論として体系化する手法の調査を行う.
近年の統計的学習理論の成果と制御理論に置ける学習制御の融合を目指し,ダイナミカルシステムの特徴を活かした学習理論の可能性について調査を行う.
現実の制御系ではコンピューターによるプラントの制御が一般的であるため,制御器のディジタル実装を厳密に考慮した特徴化とそれに基づく制御器の設計法の調査を進める.
設置期間
2016年1月1日から2018年12月31日